記憶の欠片 言葉の泪 3「お茶を淹れてくる。座って待っててくれ」
そう言われ、ひとつだけポツンと置かれた椅子に座る。
小さな家の中は必要最低限の家具等しかない。長い間、この家でたった独りきりで生きてきたのだろう。
「今も戦士として戦うことはあるのか?」
何気にスコールがキッチンに居るウォーリアに話しかけた。
「いいや、こちらに戻ってからというもの剣を振るうことがなくなったな。戦う相手がいないのでは戦士もいる意味がない・・・」
手を動かしながら答えるウォーリア。
「今じゃ、筋肉も落ちて大分痩せてしまった」
確かに後ろから見る姿も長身の割りに細く見える。
「スコールは逆に、もっと逞しくなったようだな」
スコールに茶の入ったコップを渡した。
「こちらはこちらで問題は山済みだ・・・。あ・・・悪い、他に椅子ないのか?」
「ああ、いいんだ。スコールは客人なんだから。この家に人を招くこともなかったから、私ひとり分の物しかないんだ」
「9年も、たった独りきりか・・・」
「・・・ああ」
自分も若い頃は独りで生きてきたと堂々とよく言えたものだ。と、スコールは思った。
本当は、沢山の人に支えられていたことにも気付かず、孤高の獅子を名乗ったあの頃。
古びた椅子。小さなコップ。
少し黙れば、空しく聞こえてくる時計の音。
人を招いたこともないウォーリアだけの小さな世界。
「戦うこともなくなって、今じゃ花の手入れが日課だ・・・」
窓から見える庭。沢山の花が咲いている。
「こちらに戻ってから直ぐに育て始めた。最初は分からないことばかりで何度も失敗したが、ようやくあそこまで育てられるようになった」
花ひとつひとつ育て方があって苦労したと話すウォーリア。
ふと、真っ赤な花が目に入った。
「のばら」だ。
「ちゃんとあいつの花もあるんだな」
「え?」
「そういえば、ウォーリアに花を育てることを提案したの、あいつだったな」
9年前、夢の話を交わしていたフリオニールが、戦いを終わらせることしかなかったウォーリアに花を育ててみてはどうだと提案した。
ウォーリアは皆に似た花を育てると決めたのだ。
「沢山の種類があるようだが・・・皆に似た花、育てているんだろ?」
スコールのその言葉にどこかウォーリアはポカンとした様子だった。
「どうした?あんたは自分の夢をちゃんと叶えているんじゃないのか?」
「あ、いや・・・そ、そうだったか・・・?」
「・・・なんだ?忘れたのか?」
言葉に詰まっているように見えるウォーリア。
不思議そうにスコールが見ている。
「・・・あ、買い物に行かないと。ひとり分の材料しかないし・・・スコール、何が食べたい?」
「?別に何でもいいが・・・俺も付いて行こうか?」
「大丈夫だ。ゆっくりしててくれ。直ぐ帰るから」
慌てるように家から出て行ってしまったウォーリア。
(・・・なんだか、はぐらかされたような感じだな・・・)
妙な空気を感じながら茶を飲んだ。
ひとり残されたスコールはまだ、ウォーリアの異変に気付いていなかった。
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「記憶の欠片」というタイトル通りなんですが、ウォーリアの記憶に異変が起きている。という内容なんです。
今後の展開は「言葉の泪」が示していて、タイトルだけで大まかな内容が分かっちゃうという頭の悪い管理人の作った話。
で、でも・・・読んでくださると嬉しいです・・・。
続きも書く気力も湧きますので・・・ね。
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