記憶の欠片 言葉の泪 6スコールがこの世界に来てから数週間。
相変わらずウォーリアの調子はどこかぎこちない。
スコールに心配かけまいとしているのか、気にかけて言葉をかけても何時もはぐらかされてしまう。
いくらスコールがあまり他人の心情に深く関わろうとしないとはいえ、ここまではぐらかされては気になって仕方がない。
しびれをきらして、スコールはウォーリアに何としても聞きだそうと試みた。
「一体どうしたんだ。何時ものあんたらしくない。何か悩みでもあるなら抱えずに言えばいい」
「・・・私は何も・・・」
「嘘をつくな。それとも、俺は信頼されてないのか?」
「そんなことはない」
「なら」
「・・・」
暫くの沈黙の後、ウォーリアは悩んだ末その口を開いた。
「・・・記憶が・・・失われてきている・・・」
その言葉は一瞬、スコールには理解し難いものだった。
記憶が失われてきている。
どういう事なのか。
「・・・こちらに帰って暫く、徐々に記憶が無くなって思い出せなくなってきた。日記に書いてきたはずなのに・・・」
「・・・どういう事だ」
理解に苦しむスコールにウォーリアは机の上に置いてあった日記帳を手に取り、スコールに渡した。
スコールは日記帳をパラパラめくる。
「・・・!?」
スコールは目を丸くする。
ウォーリアが付けている日々の内容の所々文字が消えている。
おそらく文章からして、人名や場所などの名前が書かれていたと思われる文字が消えている。
それはページの始めのほうに目立っていた。
「これは・・・どういうことだ・・・」
「分からない。気が付いた時には所々文字が消えていて、その消えた部分がどうしても思い出せなくなってしまった」
「そうだ・・・あんた、花を育て始めたきっかけを話していたとき、様子が変だった・・・日記の中にフリオニールの名前がない。まさか、あいつの事も思い出せないのか!?」
「・・・フリオニール・・・」
その眼は寂しそうに俯いて。
「・・・分からない・・・誰だか・・・」
「ウォーリア・・・!」
「・・・きっと」
か細く、震える声。
「きっと、君のことも・・・忘れてしまう・・・」
「そんな事ない。俺の名前は、記憶は、まだこの日記の中に沢山残されている」
ウォーリアは首を横に振る。
「私は・・・失っていく記憶の中で気付いた事がひとつある・・・」
「何だ?」
「・・・私は、こうして輪廻を繰り返していたのではないかと・・・」
「輪廻・・・」
その言葉は、あの男がよく口にしていた言葉だ。
「だが、あの男は消えた!」
9年前のあの日、ウォーリアは自らの手でその輪廻を断ち切り、あの男との真の決着をつけた筈だ。
「あいつは、もう何処にも居ない!あんたが輪廻なんてものを繰り返すことはもうなくなった筈だ!」
「・・・そう・・・だろうか・・・」
俯いたままのウォーリアの手を取る。
「あんたの記憶は必ず戻ってくる。そうだ・・・!だから俺はここに来れたのかも知れない。あんたの記憶を取り戻すのはきっと俺なんだ」
その言葉にウォーリアはようやく顔を上げた。
その青い瞳は少し滲んでいる。
「スコール・・・」
「大丈夫だ。俺がここに居れば、あんただって忘れることは出来ないだろう?」
ウォーリアはコクン。と、頷く。
「だから安心しろ。忘れてしまった事は俺が話してやる」
「・・・ん」
ウォーリアを安心させるために言った言葉だったが、本当はスコール自身も安心したかった。
記憶を戻す術も分からないというのに、どうやって取り戻すというのか。
自分がここに来た本当の理由さえ、分からないのに。
ただ、今は震えているウォーリアを落ち着かせるだけで精一杯だ。
ふと、開いてある日記帳に目をやる。
キラキラと光が現れて、日記帳の中の言葉をまたひとつ、消していった。
日記帳の言葉が全て消える前に、何とかしなくては。
スコールはウォーリアの肩を抱いた。
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やっとUPさせました。すいません。
続き、なるべく早くUPさせたいとおもいます。
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